弁体が短期間で削れる — キャビテーションとフラッシングの違いを損傷位置で見分ける
バルブの弁体が半年や一年で削れてしまう、いわゆる壊食の原因は、キャビテーションかフラッシングのどちらかであることがほとんどです。二つの違いは、削れている場所に出ます。抉れが弁体とケージまでで止まり、ボディ出口から先の配管がきれいであればキャビテーションです。ボディ出口から下流配管、特に最初のエルボやレデューサにかけて減肉が続いていればフラッシングです。この区別を先に付ける理由は単純で、トリムを替えて直るのは前者だけだからです。
絞られた直後で圧力が一番下がります
弁の中で流速が最大になるのは、弁座を抜けた直後の縮流部です。ベナコントラクタと呼ばれる部分で、圧力もここで最低になります。この最低圧が液の蒸気圧を下回ると、その場で気泡が発生します。ここまでは二つの現象で同じことが起きています。
分かれるのはその先です。流路が広がると圧力は回復します。回復した下流圧が蒸気圧より高ければ、気泡はそこで潰れます。潰れる瞬間の圧力波が金属面を叩き、スポンジ状の抉れを作ります。これが壊食です。下流圧そのものが蒸気圧より低い場合、気泡は潰れません。気液二相のまま高速で流れ続け、弁を出た先の配管内面を削っていきます。
ですから二つを分けているのは弁の内部事情ではなく、圧力回復の後に下流圧が蒸気圧の上にあるか下にあるかという系の条件です。同じ弁、同じ開度でも、下流の背圧が変われば現象は入れ替わります。
三つの数字で裏が取れます
必要なのは上流圧、下流圧、運転温度の三つだけで、いずれも DCS のトレンドに残っています。新しく何かを測りに行く必要はありません。水であれば蒸気表、その他の液であれば物性表から、その温度における飽和圧力を引きます。
下流圧が飽和圧力を下回っていれば、フラッシングで確定です。この場合、弁の内部をどう変えても現象そのものは消えません。下流圧のほうが高ければキャビテーションの候補になり、ここから先はサイジング計算の領域です。IEC 60534-2-1 のサイジングでは弁形式ごとの圧力回復係数を使い、その弁がどの差圧から気泡を作り始めるかを判定します。この係数は形式・口径・トリム構成で変わるので、型式と口径が分かればメーカー側で計算できます。設備側で押さえておくのは、判定に入れる運転条件が実際の運転を代表しているかどうかです。
数字を拾うときに一つ注意が要ります。トレンドに出ている圧力は、弁の直近ではなく上流のヘッダや下流の容器で測られていることがあります。下流側の発信器が弁から離れていれば、その間の配管損失の分だけ弁出口の実圧は記録値より高くなります。上流側が離れていれば、弁入口の実圧は記録値より低くなります。P&ID で発信器の取り出し位置と、弁との間に何が入っているかを確認しておくと、判定が数字の取り違えで転ぶことがなくなります。
トリムの摩耗は見た目と位置で切り分けます
分解して確かめるのは定期修理のときで足ります。前回の分解点検報告書に弁体とケージの写真が付いていれば、多くの場合それで判断できます。下流配管の減肉は、保温を外した肉厚測定点に超音波厚さ計を当てれば運転を止めずに確認できます。検査担当に測定点の履歴を出してもらってください。
| 損傷の見た目 | 出ている位置 | 疑う原因 | トリム交換で直るか |
|---|---|---|---|
| スポンジ状・多孔質の抉れ。光沢がなく粗い | 弁体の下流側、ケージ下段、シートリング直下、弁座直後のボディ内壁 | キャビテーション | 直る(多段トリム) |
| 滑らかに波打った減肉。磨かれたような面 | ボディ出口、下流配管、最初のエルボ内側、レデューサ | フラッシング | 直らない |
| 一方向の筋状の傷。上流側の面から | プラグ上流面、ケージ上段 | 異物によるエロージョン | 直らない(上流のストレーナ側) |
| シート面を横切る細い溝 | プラグとシートリングの当たり面だけ | 微開度運転によるワイヤードローイング | 選定の問題(Cv 過大) |
二つが同時に出ることもあります。弁体がスポンジ状に抉れ、同時に下流配管も減っている場合は、運転条件が幅を持っていて、負荷によってキャビテーションとフラッシングを行き来しています。どちらか一方の対策では足りません。
音も補強材料になります。キャビテーションは砂利が転がるような不連続な音で、音源は弁の本体付近に留まります。フラッシングは連続した吹き出し音で、音は下流配管に沿って伸びます。ただし運転中の弁に近づいて聞き分ける作業ではありません。安全通路や点検架台など決められた位置から、騒音計や超音波聴音器で複数点を測って、どこで音が大きいかを記録します。音だけで結論は出ませんが、損傷位置からの見立てと音源の位置が食い違うときは、見立てのほうを疑う根拠になります。
トリムを替えて直る場合と、替えても直らない場合
同じトリムで交換を繰り返している弁は、この判定を一度も通していないことが多いです。交換のたびに数か月から一年で戻ってくるなら、周期は摩耗ではなく条件で決まっています。次の交換をいつにするかを決める前に、前回と前々回の分解点検報告書を並べて、損傷の位置が同じかどうかを見てください。毎回同じ位置なら条件が固定されているので、形式を変えれば止まります。位置が動いているなら運転条件のほうが動いているので、先に条件を押さえます。
キャビテーションは、減圧を一段で取らずに分割すれば止められます。多段トリムは各段の圧力降下を小さくして、どの段でも最低圧が飽和圧力を下回らないようにします。多孔ケージや迷路状の流路で流速そのものを抑える形式もあります。高差圧の重サービス用トリムを設計できるメーカーは限られていて、Kent Introl のような専業メーカーはこの領域に絞った製品構成を持っています。標準的なグローブ形調節弁で仕様がどう並ぶかは 501T の製品ページ、取り扱っている形式の一覧は製品ページにあります。
フラッシングはトリムでは消せません。下流圧が飽和圧力を下回るという系の条件そのものが原因だからです。打てる手は三つあり、いずれもトリムの外にあります。一つ目は材質で、硬化肉盛りや硬質材にして寿命を延ばします。二つ目はボディ形式と配管で、アングル形にして流れをボディ壁に当てず、下流側を拡大する構成にすると減肉が一点に集中しにくくなります。三つ目は減圧の分割で、弁を二台に分けて下流圧を飽和圧力の上に保ちます。後の二つは配管の改造になるので、設備側だけでは決められません。条件を整理して運転部門とプロセス設計に判断してもらう話になります。
もう一つ、弁が過大で常にわずかな開度でしか使われていない場合があります。この時に削れているのはシート近傍だけで、キャビテーションでもフラッシングでもありません。Cv の選定をやり直す以外に手はなく、トリムだけ硬い材質に替えても同じ場所が同じ速さで削れます。
条件を満たしていないのに削れていた一件
ここまでの切り分けが当たらないことがあります。トレンドを見る限り下流圧は飽和圧力よりずっと高く、差圧にも余裕があります。それでも弁体はスポンジ状に抉れています。ボイラー給水のミニフローラインでよく出る形です。
この場合に疑うのは弁ではなく記録の取り方です。長期トレンドは分単位の平均に圧縮して保存されるのが普通で、起動でポンプを立ち上げてから主流量が乗るまでの数分間、ミニフロー弁が全差圧を一台で受ける山は、平均の中でならされて消えます。定常運転の条件で判定すればキャビテーションは起きないという結論になりますが、実際に削っているのは年に何回かの起動時だけの条件です。
手がかりは、損傷が運転時間に比例していないことです。前回交換からの運転時間が短いのに前回と同じだけ削れている、連続運転が長かった年ほど損傷が軽い、といった食い違いが出ます。こうなったら定常のトレンドではなく、起動・停止・トリップ前後の秒単位のデータとイベント記録を出してもらいます。判定に使う運転条件は一つとは限らない、という話です。
運転差圧と上下流圧力を、起動時のものも含めてお送りいただければ、キャビテーションとフラッシングのどちらかを判定し、トリム形式の候補をお返しします。→ お問い合わせ