「ミルシートは出せない」と言われた時に、どこまで下がって何を取るか
注文の条件にミルシートの提出を入れたところ、「それは出せません」と返ってくる。断られた理由が分からないまま、受入基準を緩めるか、別の調達先を探すかの二択に見えてきます。実際には、その手前に確認する段階があります。
出せないと言う理由はいくつかある
同じ「出せない」でも、背景は違います。最初に切り分けるべきはここです。
| 背景 | 実際に起きていること |
|---|---|
| 材料を在庫から出した | ロットが混在し、この品に対応する証明を特定できない |
| 材料商社から買った | 原本は商社が持ち、写しの発行に時間がかかる |
| 仕入先を明かしたくない | 証明書に材料メーカー名が載るため出したくない |
| その材料に証明の慣行がない | 汎用材で、そもそも発行を受けていない |
| 注文時に要求がなかった | 後から求められ、遡って取得できない |
この五つは、対処がまったく違います。二番目なら待てば出てきます。三番目なら伏せ方の交渉になります。五番目はこちら側の手順の問題です。
したがって最初の一手は、代替案を出すことでも諦めることでもなく、どの理由なのかを聞くことです。
聞き方にも差が出ます。「出せますか」と尋ねると可否の答えしか返りません。「材料はどこから調達されていますか」「ロット番号は製品に表示されますか」のように手前の事実を聞くと、出せない事情のほうが先に見えてきます。相手にとっても、断る話ではなく状況を説明する話になるので、答えが返りやすくなります。
そもそも何を確かめたいのか
ミルシートを求めるのは、書類を集めるためではありません。材料が指定どおりであることを、後から示せる状態にするためです。
この目的に戻ると、必要な情報が見えます。成分が規格の範囲にあること、機械的性質が規定を満たすこと、そしてその材料がこの製品に使われたと辿れること。三つ目の追跡性が、実務では最も抜けやすい部分です。
成分表だけをもらっても、それがこの品の材料かどうかを示せなければ、証明としては弱くなります。逆に言えば、追跡できる形であれば、必ずしも原本の写しでなくてもよい場合があります。
用途によっては、証明の要求が自社の判断ではなく外から来ます。圧力設備や構造部材では、適用される規格や検査の枠組みが材料の証明を前提にしていることがあります。この場合は交渉の余地が小さく、証明を出せる調達先を選ぶところから始まります。要求の出どころが社内基準なのか外部の規格なのかを先に確かめておくと、どこまで譲れるかの線が引けます。
下がれる段階がある
全か無かではありません。実務で使われている中間の形がいくつかあります。
- 材料メーカー名を伏せた写し — 成分と機械的性質は残し、供給元の名称を隠す。
- 製造者の証明書 — 製造者が自社の責任で、使用材料が規格に適合すると宣言する。
- 第三者による試験 — 現品から試験片を取り、試験機関で成分と強度を確認する。
- ロット番号の紐づけ — 証明書と製品に共通のロット番号を刻印し、対応を示す。
どこまで下がれるかは、その部品が何を担っているかで決まります。圧力を受ける部品、荷重を支える部品、安全に関わる部品では下げにくく、構造に関わらない部品では緩められます。
判断の順序としては、部品ごとに要求の水準を先に決めておくほうが早くなります。一律に要求すると、緩めてよい部品でも交渉が発生します。
材料メーカー名を伏せる形について補足すると、これは相手にとって調達構造を守る手段でもあります。成分と機械的性質が揃っていれば技術的な確認は成立するため、名称を伏せることを認めるだけで話が進む場合があります。こちらが確かめたいのは材料の素性であって、相手の仕入先ではありません。その点を明示すると、交渉の性格が変わります。
第三者試験をどう使うか
証明が取れない場合に効くのが、現品からの試験です。韓国国内にも試験機関があり、成分分析や引張試験は依頼できます。
注意点は二つあります。一つは破壊試験になる場合があること。試験片を取れば、その部品は使えません。数量の少ない発注では、試験用に一個余分に作る必要があります。
もう一つは費用と日数です。部品の単価を上回ることもあり、その場合は証明の取れる調達先に変えるほうが合理的です。ここは金額で比較できる判断です。
注文の時点で決めておく
後から求めて揉めるのは、注文時に書いていないからです。次の四つを注文書に入れておけば、大半は起きません。
第一に提出を求める書類の種類。第二に提出の時期——出荷前か、出荷と同時か。第三にロット番号の表示——製品と書類の対応をどう示すか。第四に提出できない場合の扱い——代替の証明で足りるのか、受け入れないのか。
四番目を書いておくと、交渉が短くなります。書いていなければ、出荷直前に初めて議論が始まります。
書類の形式も決めておくと後が楽です。紙の原本が要るのか、電子データで足りるのか。電子であれば、出荷の連絡と一緒に受け取れます。原本を求めると郵送の時間がかかり、書類を待つ間に貨物が着くことになります。社内の保管規程で原本が必要な場合を除けば、電子で受け取って保管するほうが紛失もしにくくなります。
受け取った証明書の読み方
提出されたからといって、内容を確認せずに保管すると意味がありません。最低限、次の点は見ます。
規格と等級が注文どおりか。数値が規格の範囲に入っているか。ロット番号や製造番号が、実際に届いた品と対応しているか。発行日が製造時期と矛盾していないか。
数値が範囲に入っているかは、自動的にそうなるとは限りません。規格の下限ぎりぎりの値が並んでいる場合、それ自体は不適合ではありませんが、用途によっては確認する材料になります。
社内で求められたときに何を出すか
この話が実際に効いてくるのは、数年後に社内の監査や品質の照会があったときです。「この部品の材料はどう確認しましたか」と聞かれます。
そのときに必要なのは、証明書そのものよりも確認した手順が残っていることです。何を要求し、どこまで得られ、足りない分をどう補ったか。この記録があれば、証明書が完全な形でなくても説明できます。
逆に、完全な証明書があっても、それが届いた品と対応していることを示せなければ、監査では同じ質問が続きます。
緩めた基準が次の発注で戻らない
一度「今回は証明書なしで受け入れる」と決めると、その扱いが前例になります。次の発注でも同じ品目で要求すると、「前回は不要でしたが」と返ってきます。
このため、例外を認めるときは今回限りであることと、その理由を書面に残す必要があります。口頭で了承すると、記録に残るのは受け入れた事実だけです。
そして緩めた品目は、次に仕様を見直す機会に基準を引き直します。一度下がった水準は、意識して戻さない限り戻りません。対象の部品と用途をお知らせいただければ、どの水準の証明が現実的かについて見解をお返しします — 調達のご相談。発注時の指示全般は仕様書に入れておく項目にまとめています。